隣の家の少女 書評
「苦痛とはなにか、知ってるつもりになっていないだろうか?」
小説の一文目は記憶に残るものだ。
ジャック・ケッチャムはこの「隣の家の少女」という作品をこの書き出しで始めた。
問題作である。
初めて読んだとき、あまりに衝撃を受けすぎて発禁にするべきだと本気で考えた。
なぜ記念すべき書評の一発目をこの作品にしたのか、それはただ一つ、この作品が良くも悪くもずっと頭に残っているからに他ならない。
1958年のアメリカのとある田舎町。12歳の少年デヴィットの隣の家に住む女性、ルースのもとに、両親を亡くしたという快活な美少女メグとその妹で肉体的な障害のあるスーザンが引っ越してくる。デヴィットはすぐにメグに心を奪われるのだが、同時期、姉妹がルースによって折檻を受ける現場を目撃しショックを受ける。ルースの虐待の矛先はやがてメグにより鋭く、偏執的に向けられるようになり、ある時メグは地下室に監禁され、ルースと彼女に扇動された彼女の息子たち、そして近所の少年たちによって凄惨なる凌辱と虐待を受け衰弱していく。ただ傍観し続け、助けることもしないデヴィットはそれでもある時メグを脱走させようとするが…
これがあらすじである。
どうだろう、読んでみたくなっただろうか。ぼくはならないし、現に一回読み始めて挫折している。
ぼくが再び手に取ったのは、完全に以下のせいである。
【2F文庫】近年最高の作家の一人J・ケッチャムが亡くなってから早10日まだ悲しみは癒えない。のでケッチャム始めました。絶版本は絶版なので無いですが…扶桑社から提供して頂いたケッチャムのサインが…展示…だと…僥倖…!圧倒的僥倖…!!バッジも付けてますので持っている方もまたぜひ。mm pic.twitter.com/urq7hDrlqC
— 紀伊國屋書店 新宿本店 (@KinoShinjuku) 2018年2月3日
このツイートのものに加え、書店員の方が書いたと思われるケッチャム先生への愛がびっしりと詰まったボードを目にしてしまい、一度閉じた悪夢への扉をもう一度開いてしまったのである。
冷やし中華のノリでケッチャム始めるな。
メグは美しい。
そしてそのメグと主人公であり語り手のデヴィットの出会いは実にさわやかで、ボーイ・ミーツ・ガールの風が吹き抜ける。
アメリカのホラー大家、スティーブン・キングが映画化もされた自らの代表作「スタンド・バイ・ミー」とこの作品は表裏一体である、と解説で評しているのもこの序盤のイメージが似通っているからであろう。
ただ物語はそこから表と裏とへ分かれてゆく。
この作品はひたすら底へと落ちてゆく。
この物語の登場人物は大体が子どもである。
子どもは無邪気さを持ち合わせているもので、無邪気さ、それ自体は危うさも孕んでいるが、その不安定さが微笑ましくもある。
しかし、ストップがかからないとどうなるのか。
ストップをかけるべき人も無邪気さを残していたらどこに行きつくのか。
とまあ、初めて読んだときは最悪の気分でした。
こんな出来事はケッチャムの小説の中だけでいい、そう思いながら読書メーターをすーっと見ていると、この小説はある事件をもとに書かれていることを知りました。
wikipedia:ガートルード・バニシェフスキー(小説のネタバレになるだけではなく、内容もなかなかのものなので読み終えてなお精神状態の良いときにご覧ください)
「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものである。
...という事実を知ると、この小説の見方も少し変わってきます。
この事件は絵空事ではなく、何かを伝えようとしていて、最後まで目撃した読者は何かを得なければならないような気になります。
ネタバレをどうにか避けてきましたが、以下どうしても少し含まれます。未読の方はこの段落は飛ばしてください。
鍵は1950年代という時代と、やはり主人公であるデヴィットではないでしょうか。
核シェルターが家の地下に普通にあるという時世と、まだ熟成しきっていないが先も見えない町の閉塞感。
何度も出てくる「だれにもいうんじゃないよ」というセリフが見事にこの時代を表しているように思います。
そしてその言葉どおり、誰にも言わなかった、言えなかったデヴィット。
直接関わることはどうしても避け傍観者に徹した彼でしたが、それが正しくなかったことは彼も終盤で気づいています。
デヴィットを通して事件を見ていた我々も、町のおまわりさんに気づかされるのです。
「だが、助けもしなかったわけだ」
なにが読み取れるかはさておき、これだけ人の印象に残り、語られてきたというのは非常に力を持った作品だとぼくは思います。
「名作」と「問題作」というのもまた表裏一体の存在なんでしょう。
書評一発目にしてはハードなものに触れたみたいだ、もう疲れたよパトラッシュ。
んじゃまた
- 作者: ジャックケッチャム,Jack Ketchum,金子浩
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 1998/07/01
- メディア: 文庫
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読書メーターからの離脱
本、読んでますか?
本、いつから読んでますか?
本、初めて読んだものを覚えていますか?
ぼくが上から順に回答していくと、
最近それなりに、小学校入学前くらいから、覚えてない
...なんとなくこれだけで適当な人間だというのがばれますね(!)
ぼくと本の邂逅はおそらく結構早かったと思います。
5歳くらいから高校に進学して部活に打ち込むまでは、本当によく読んでいました。
今思いつくだけでも、
ハリーポッター、バーティミアス、モモ、指輪物語などの王道SF系や、
パソコン通信探偵団事件ノート(ずっとパスワードという名前のシリーズだと思ってた)、名探偵夢水清志郎事件ノートなどの青い鳥文庫系、
三毛猫ホームズや少年探偵団シリーズ、
そして母親が渡してくれた講談社ノベルス、
これらが子どもから思春期のぼくの中を通り過ぎていきました。
大学生になって急にめちゃくちゃ暇になり、本屋で手に取った1冊はちゃんと覚えています。
中学生で初めて十角館の殺人を読んだ衝撃を思い出したんでしょうね、人に薦めまくりました(まだ映画の話もなくみんな知らなかったです)
そこからまた少しずつ本を読むようになりました。
それからあっという間に大学も卒業し、いまだに勉強している身ですが本は読み続けています。
いままでは読書メーターで記録をつけてましたが、物足りなくなったので拙稿ですが少しづつ書評をあげていこうと思います。
そして、いずれ死ぬまでに一度くらいちゃんとした場で自分の文章を発表してみたい。そのための練習と思って始めた側面もあります。
もう疲れたので、ここらへんをもって自己紹介とあいさつに代えさせていただきます(唐突)
んじゃまた